シンポジウム『日本の医療が危ない』を聞いて

              神奈川県・横須賀中央診療所 春田明郎


1.社会保障と経済
 鎌田医師は問題提起の中で、公的医療費支出を年2兆円増やすと、日本の医療をよくできる。安心の医療ができれば、国民の1400兆円の預貯金が動き出し、経済をも動かすと言われた。
 権丈教授も、医師が不足し医療が崩壊しつつあり解決の方向性として公的医療費支出を増やす必要があることはいまやマスメディアを含めて自明のことであり、次の参院選で投票行動を通じてそれを意志表示すべきであると話された。
これに対し、厚生労働省の佐藤課長は、政府はあくまで経済成長あっての社会保障と考えているという。保険料が経済に連動する仕組みになっていることをわかりやすく説明してくれた。
 まだ公的医療費支出の総額を増やす必要性は自明とは言えないようだ。それでは再分配政策としての社会保障について、権丈教授にもっと説明して欲しかったと思う。また、大きな政府と小さな政府との比較で、スウェーデンもアメリカも福祉の費用は同じで、スウェーデンは公費、アメリカでは市場(私費)で賄っていると資料も勉強になった。スウェーデンは福祉を公的に供給し、アメリカは市場に、儒教の強い日本やカソリックの強い南欧は家族に依存しており、今後日本はスウェーデンを目指すべきであるという指摘に、厚生労働省の見解をうかがいたかった。

2.アウトカムについて
 また、佐藤課長は医療費の総枠を増やしたり、配分を決めるとき、アウトカムがどれくらいかと言うことを国民に提示していかなければならないと指摘された。医学も科学であり、データは重要だ。規制改革・民間開放に関する第2次答申(17年12月)でもアウトカムが求められた。ただし、患者や国民の選択のために、死亡率、平均在院日数、再入院率、院内感染症発生率、術後合併症発生率などのアウトカム情報を公開せよ、という主旨だ。厚労省が、小児科産科が困っていることや、医療崩壊を防ぐため財源の確保が必要なときに、アウトカム情報がないからダメ、というのなら金を出し惜しむためのすり替えである。
 蛇足になるが、規制改革・民間開放推進会議の関係者こそ、バブル崩壊後の失われた10年に投入されアウトカムのない125兆円の景気対策の関係者や恩恵を受けた人々である。そう言う人達からアウトカムを言われれたくない。権丈教授や鈴木医師の話を聞きながら、失われた10年に小さな政府という一つの(おそらく誤った)経済理論で高所得層やベンチャーによる景気牽引を期待するより、社会保障を充実し所得の再分配をしていれば、消費が冷え込むことなく、年金も立て直せた可能性があったと思った。
 ところで、勝村氏が紹介された医療事故の事例は、過去の事件が教訓化されず今も繰り返されていることショックである。価値観をそのままにして医療費の総枠を増やすとおかしな医療の総量を増やして行くばかりだという指摘も重く受け止めなければならない。

3.国民皆保険制度の議論が不十分
 シンポジウムでは、病院が大変であり何とかしなくてはならないと言う状況が伝わった。鈴木医師によれば、医師がヘトヘトであるだけでなくスタッフも忙しすぎ、新人看護師の1割が1年でやめていくと言う。鎌田医師の支える医療や勝村氏の介護や看護に価値の置かれた78デンマークのような)医療にほど遠い。
 一方、国民皆保険制度そのものの危機について掘り下げられなかったのは残念である。佐藤課長が、混合診療について日本医師会が認めないと、笑いながら話されたが、権丈教授や鈴木医師が関連することを少し述べられただけで、混合診療問題で議論がなかった。公的医療支出が抑制され、療養費払いや食費・ホテルコストなど患者自己負担が増え、民間の生命保険、損害保険会社のマーケットが拡大している。国は保険料でも本人負担でもお金が入れば良いだろうが、社会保障としてみると、保険料と自己負担は意味が違う。権丈教授の言われる平等消費から階級消費へと向かっているのである。岡光元厚生事務次官以来の民間保険参入路線で、(一部株式会社が参入するものの)公的保険はほぼそのままで、周辺部分に大きな市場が作られつつある。1階より2階が大きくなると2階建ては不安定で崩れる危険が大きい。選定療養や評価療養制度の療養費の拡大を警戒しなければならないと思う。