勝村 久司(医療情報の公開・開示を求める市民の会 世話人)
不自然な出生数グラフ
厚生労働省が作成している出生数に関する統計資料を分析したところ、2005年には1年間で約106万人の赤ちゃんが産まれ、一日当たりの平均は2911人でしたが、出生数が最多の火曜日の平均と最小の日曜日の平均が約1000人程もありました。初めて統計をとったであろうと思われる1984年から22年間、この傾向はずっと変わっていません。
時間別の出生数は午後2時台が一番多く、夜間の有に2倍以上あり、これも22年間ずっと変わっていません。少子化で全体の数字は小さくなっていますが、これらの比率はずっと変わらずにきています。出生時間については地球の自転の影響があるのかもしれないので、助産所で産まれた赤ちゃんだけについて調べてみました。現在、助産所での出生は全出生数の1から1.5%で絶対数は少ないのですが、1984年から2005年までの22年間に助産所で産まれた全部の赤ちゃん約32万人でグラフを作ったところ、時間的にはほとんど変わらず、午後2時にピークがあるのは、病院や診療所特有のものです。
日本の医療はこのように全体として不自然な出産を強いられているために、陣痛促進剤による被害が起きているのです。1990年、私の1人目の子どもは火曜日の午後2時の直前に陣痛促進剤による副作用の強すぎる陣痛によって死亡しました。
陣痛促進剤被害の3つの共通点
2005年12月、陣痛促進剤被害の記事が毎日新聞の一面トップに載りました。陣痛促進剤の添付文書が大きく改訂された以降も、赤ちゃんの死亡が100人を超えたということです。そんな被害者たちの話には共通している点がありました。1つ目は、母親が知らされずに飲まされたということです。これほどインフォームド・コンセントが大事だと叫ばれていても、被害を起こしているような病院はやっぱり本当のことを言っていないのです。患者の知らない間に薬を使うような病院が、被害を起こしているという傾向があると思います。私の妻も子宮口を柔らかくする薬ということで陣痛促進剤を飲まされました。裁判になると、医師はあの薬は全員に使っているが、みんなが被害に遭っているわけじゃないから、母親が悪いみたいな話をしました。何で本当のことを母親教室で言わないのかと質問したら、本当のことを言うと患者が不安がるので、患者を不安がらせないようにするのもインフォームド・コンセントだと、嘘をついて促進剤を使うことを正当化していました。
2つ目は、人間として扱われなかったという経験です。私の妻は38週の定期検診で、医師から赤ちゃんが産まれかかっているから入院しなさいと言われました。妻は本に書いてあった出産の徴候が何もないから違うと思って言い返したところ、最後に医師から念のための早めの入院だと言われて入院したのです。そしたらすぐ、1時間置きに1錠ずつ薬を飲むように言われ、何の薬かと聞いたら、子宮口を柔らかくする薬だと言われました。本当は陣痛を起こす薬でしたから夜中に痛みがきて、妻は医者の言うとおりに陣痛がきたと思ったのです。お産では最後まで間欠期があり陣痛がなくなる瞬間があると本には書いてあったのに、ずっと張りっぱなしでした。翌朝7時まで放っとかされ、朝8時頃になって初めて主治医が陣痛室に覗きにきました。妻は非常にしんどかったけれど、主治医に伝わるように丁寧な言葉で一生懸命しゃべったと言うのです。初産だからよくわからないけど、陣痛が異常じゃないかと思うと。すると主治医は、「これだけしゃべれるということは、陣痛が微弱過ぎる、陣痛促進剤追加」と助産師に言って出ていきました。妻は肩に筋肉注射をされ、また放っておかれ、気絶しないようにするのがやっとの状態になりました。
3つ目は密室での拷問です。昔から戦争中等には拷問があったと思いますが、陣痛促進剤のひどいところは、母親が胎内で10ヵ月間一生懸命大事に育ててきたのに、最後に薬を投与され自分の子宮で子どもを殺させることです。妻はDIC(血管内凝固症候群)になりましたが、大量輸血の末幸い奇跡的に回復し死なずに済みました。意識が回復して最初に、妻は子どもがすごいダメージを受けているんじゃないかと聞きました。助産師から「子宮口が全然開いてないのに息んだらだめでしょ」と何度も叱られたけれど、自分は何度も息んでしまった。自分の我慢が足りないから子どもにダメージを与えてしまったんじゃないか、と言って涙ぐんでいました。
一石三鳥の利益優先
妻が被害に遭ったのは大阪の枚方市市民病院です。私らが被害に遭う4年ほど前に枚方市議会でやり取りがありました。ある議員が「枚方市民病院は3年間で20億を超える赤字を出しているが、どうするつもりか」と質問しました。それに対して市長は「大変申し訳ない。この3年間で出した20億円の赤字は今後10年間で取り返します。人件費削減、薬価差益増、患者増、この3本柱で。そのために、来年から院長、副院長、事務局長を全部入れ替えます。」と回答しました。そして、翌年やって来た副院長が、妻の主治医の産科医だったのです。一緒にやって来た外科医の院長は、定年退職した看護師や麻酔科医などから朝日新聞へ内部告発があって、その後、枚方市自身が告発したため逮捕されました。「乳がんではないとわかっているのに、「がん」だと嘘をついて全部乳房を切っていた。」「医師がいない間に患者が死んだのに、医師がずっといたように看護師に記録の改ざんをさせていた。」「医薬品採用に関する委員会を開かずに院長が全部決めて、製薬企業からお金もらっていた。」などの罪でした。
その院長と副院長の2人がいた10年間、枚方市民病院は毎年2億円から5億円の黒字を上げていたそうです。当時、枚方市民病院は人件費削減のため夜間や休日には医師や助産師を置いておらず、すべての妊婦に微弱陣痛という病名をつけて陣痛促進剤を使い、患者からは保険が適用されない自然分娩の費用ももらい、事故が起こると集中治療でさらに収入を増やすという構造でした。陣痛促進剤被害の背景には、命よりもお金が優先という感覚があるのです。
情報の非公開
3つ目は情報の非公開です。1974年、開業医の団体である日本産婦人科医会、当時の日本母性保護医協会が会員にある冊子を配布しました。その後、配布された冊子には、子宮収縮剤すなわち陣痛促進剤によって胎児死亡、重度の脳性まひ、子宮破裂、母親死亡などが頻発しており、一部では裁判にもなっているから気をつけなければいけない、この冊子は会員以外には見せないようにという主旨の記載もありました。ということは、その2〜3年前に多数の被害があったことを、産婦人科医の団体は把握していたことになります。
私がその冊子を読んで一番怖いと思ったのは、陣痛促進剤に対する感受性には200倍以上の個人差があるということです。人によっては200倍の量の薬を間違って投与されたのと同じくらいの痛みが起きるのです。一定の割合で必ず感受性の強い人がいるので、その人たちは非常に強い陣痛(過強陣痛)が来て被害に遭っているということです。最近、助産師学会や助産師を教育する立場の人に聞いたところ、感受性の個人差が200倍あること知っている人はいませんでした。医師もほとんど知らないで使っているのです。
当時、枚方市民病院では全ての妊婦に使っていたのですが、裁判で病院側は全員が被害に遭っているわけではないから、私の妻の方が悪いということを主張していました。全員に同じ薬を入れていることを知っていた助産師は、全くけろっとしている妊婦もいるのに、ぎゃあぎゃあわめいている妊婦は我慢が足りないと思い、根性がないと叱ってしまうのです。助産師が感受性の個人差のことを知っていたら、そうは思わないはずです。
レセプト開示の意義
私らが被害に遭ったころに、インフォームド・コンセントという言葉が日本に入ってきました。当時は、患者は絶対にカルテやレセプトを見ることができませんでした。当時の厚生省はレセプトを保管している健康保険組合などに対し、患者から請求があっても、弁護士や裁判所からの請求であってもレセプトを開示するなと通知していたのです。本当のインフォームド・コンセントを求めるために、私たちはレセプト開示運動を始めたのです。
なぜ陣痛促進剤被害が繰り返されるのか、そうしたほうが儲かるような仕組みは中医協が決めていると知りました。平日に出産させて、土・日は医師がゴルフに行けるようにする、火曜日の外来が終わって午後2時ごろに産ましておけば、夜は飲みにいける。薬を使えば使うほど、儲かるようになっている。子宮口が柔らかくならないうちに無理やり産ませるわけですから、会陰切開ではさみを入れれば儲かる。初産だったら8時間から10時間かかるのに、陣痛促進剤を使えば2,3時間で終わり、楽なお産でしたねと言える。そういう無茶苦茶な医療に対して、多額のお金が支払われている。
一方、夜中でも複数のスタッフが待ってくれ、ハイリスクの際には帝王切開の準備もして、薬も使わず大事に自然分娩にしてくれる、私からしたら感謝でお金をいくらでも払いたいと思う本当に価値がある医療に対しては、お金が少ししか支払われていない。良心的な医療機関は赤字で潰れてなくなっていきます。こうした逆転している価値観が不本意な医療をつくっている根源であり、不本意な医療の極みが医療事故・医療被害なのです。価値観を是正するには、今の価値観がどうなっているのかを国民が知らなければならない。知るためには請求明細書が必要なのに、医療機関からは出されていません。大きな病院は明細書を発行していると言っていますが、投薬料・検査料・保険外費用・保険内費用がいくらという小計にすぎず、詳しい明細は見せていません。だから中医協は明細を国民に隠したまま自分らの都合のいいように、医師が楽をできるように、製薬会社や医療機器メーカーが儲かるように、市民感覚とずれた価値観を勝手に設定することができるのです。そういう仕組みを改善するために、国民が医療の単価をしっかりと見ていくことが大事なのです。
医療費と医療満足度
朝日新聞の論説委員だった大熊由紀子さんが作った資料によると、日本とデンマークは国民1人当たりの医療費はほとんど同じですが、医療に対する満足度は全然違います。アメリカにおいては国民皆保健制度がないため貧富の差で医療保険が違うという問題もありますが、日本の倍ほど費用をかけていますが満足度は低い。日本はこれからデンマークの方に行くのか、アメリカのほうに行くのかの境目に来ているのではないでしょうか。
実は、良心的な医者や医療関係者は、他の欧米諸国に較べて日本の医療費30兆円は少ないのではないか、軍事費を削って社会保障費を増やしていくことによって、日本の医療費をアメリカ並みににしたら、もっと日本の医療はよくなると思っていますが、違うと思います。なぜかというと、単価の価値観を変えないまま総額を増やしても、患者の満足度は下がるからです。私からすれば、価値がないと思うものに高い単価をつけたままにしておいて総額を増やすと、不本意な医療が倍になってしまうだけなので、単価の価値観こそを変えなければいけない。私らが被害にあった1990年に15兆円だった医療費がこの15年間で2倍になりました。良い医療をしていて赤字だった病院が15年経って黒字になったかというと、価値観を変えていないのですから黒字になるわけがありません。薬を使えば使うほどお産も儲かるようになっているのであれば、総額が2倍になったときは不本意な医療が2倍になっているだけです。
大熊由起子さんによると、デンマークでは介護や看護に大きな価値が置かれており、医療を担う仕事に就いている人、例えば看護師さんなどが生き生きと仕事をしているし、質も高いということです。それに対して、日本では薬や検査に価値が偏っていますので、医療制度の問題を考えるときは医療費総額の議論ではなく、単価の中身を変えていかないといけないと思います。
本当のリスクマネージメント
2006年4月に医療法が改正されました。それに先立ち、私も一員として加わった医療安全対策ワーキンググループにおいて、医療法改正案のたたき台のようなものを検討し、2005年6月に報告書を提出しました。この報告書の前書きと後書きには3つの柱<医療の質と安全性の向上、原因究明と分析、情報の共有>が載っています。
<医療事故事例の原因究明と分析に基づく再発防止対策の徹底>を入れたことには、すごく意味があります。なぜなら、知っているのはインシデント・ヒヤリハットだけで、事故や被害状況についてみんなは知らないのです。私らの裁判は1審で敗訴、2審で勝訴し確定しました。勝訴が確定して初めて18項目の要望書を作って病院に持って行くと、院長、副院長、事務局長、看護師長など10人ぐらいが並んでいました。小児科医の院長は、最初のあいさつで「星子ちゃんには大変申し訳ないことをしました。この事故を教訓に被害防止に努めていきたいと思います。」と言ったのです。そこで妻が「ということは、みなさんは私たちの事故がどんな事故だったのか知ってくれているのですね」と聞いたのです。そしたら誰も答えられないのです。雰囲気のあまりの悪さに事務局長が、「確か産婦人科の事故ですよね」と言うのが精いっぱいでした。
自分の病院で起こった事故でも、社会的に大きな問題とならなっていても職員には全く真実が知らされず、そのため漫然と事故が繰り返されるのです。その後も更に病院では人事異動があるでしょうから、今の枚方市民病院のスタッフが私たちの事故のことをどれだけ知っていて、どのように事故から学んで教訓にしているかは分かりません。私の学校の教育活動でも人権学習や平和学習では被害者自身を学校に呼んで話をしてもらうように努めており、被害体験を引き継ぐことは難しいとは思うのですが、本当に大事だと思っています。
中医協の委員として
2005年の春、私は連合の推薦で中医協の委員になりました。中医協は医療費総額の議論ばかりしていたのですが、私が委員になるころに総額は別の所で決めることになりました。新聞記者から、「勝村さんが委員になると同時に、中医協の権限が大幅に縮小しましたね」と言われたのですが、私にとってはラッキーだったと思いました。なぜなら、総額を決める政治的なやりとりに私が入っていてもあまり意味がない。ところが総額が決まった中での議論というのは、中身をどう変えるか、どの単価を上げてどの単価を下げていくかという議論で、それこそ私がしたかったことだからです。
今回の議論は総額を3%ほど下げるという中で、私は救急医療・小児・産科・地域医療等に関しては上げるよう主張しました。その方向に進みましたが、まだまだダイナミックさに欠けている感じがします。
現在、勤務医は寝る間もなく働かされ給料も少ない、こんなだったら開業したほうが楽だと開業医になっています。ダイナミックに価値観を変えるような仕組みができれば、病院で働くほうが安定していると医師が集まってきて、過労もなくなるかもしれません。また、小児科医療に力を入れ報酬を手厚くすれば、小児科医になろうと思う医師が増えてくるかもしれない。救急医療を手厚くしていく制度ができたら、うちも地域の救急医療を守っていこうと病院長が思うかもしれません。今回は本当の動きをつくるというところまではいきませんでしたが、今後も市民感覚を持つただ一人の委員として奮闘したいと思います。