社会保障改革と介護保険の将来像
中村 秀一( 厚生労働省老健局長)
11月28日自治労会館で、鎌田代表世話人挨拶と黒岩元代表世話人の若月賞受賞記念講演のあと、中村秀一厚生労働省老健局長から社会保障改革と介護保険の将来像についてご講演いただいたので、以下に要旨を載せます。
(文責春田明郎世話人)
◆ 社会保障改革の全体像
2004年年金制度改革は大きなインパクトを与えている。年金の改革が大変もめ、選挙でも内政問題の最大の争点になった。社会保障が日本の内政の最大の問題になってきた。
1970年頃日本の福祉は小さく、国民所得の6%くらいで、今の1/4の大きさ。その社会保障給付費の6割が医療費だったので社会補償問題イコール健康保険問題だった。1973年を福祉元年といい初めて暮らせる年金を作ろうと当時現役労働者の賃金の6割を保証、年金の改革が始まった。年金がどんどん大きくなり1981年医療費の大きさを年金が抜いた。高齢化に伴って年金は給付を改善し増えていった。1989年頃は、年金が5、医療が4、介護を含めて福祉が1の割合。
94年細川政権・大内啓吾厚生大臣の時福祉ビジョンをつくり、医療をスリム化し老人介護を中心に介護を膨らまして、5:3:2を目標にした。この時に厚生省は介護保険シフトを敷いた。今は2000年の介護保険を入れてから1の部分が増え5:3.5:1.5くらいになった。今日では82、3兆円が社会保障の給付費、44兆円が年金で半分以上。こういった中で、2025年まで年金の大きさを変えないという年金改革が今年行われた。今の年金の大きさは国民所得に対して12.5%だが今度の年金改革で2025年経済に占める年金の大きさは12.0%に抑えられる。
日本はこれから20年高齢化の最後の急な登り坂になるが、今65歳以上の方2400万人がもらっている年金を2025年に3500万人に増えるけれど同じ年金で我慢するという改革が今回の年金改革のポイント。社会保障の構造は年金が5,医療が3.5、介護福祉生活保護全部入れて1.5から、2025年に4:4:2になる。年金がピン留めされた、頭打ちにされたのが今回の改革のポイントだがこれはあまり皆さんに知られていない。そう言う説明が十分できないまま、未納未加入問題とか、社会保険庁の無駄遣いとか社会保障全体からすると本質ではないところにかなり議論が集中して、本来の年金改革の姿が見えなかった。
◆ 社会保障は中身より制度維持
この年金改革が不十分と言う人は、負担をもっと上げろと言うのか、年金の中の配分をどうするのかハッキリしないでただ不十分だ不十分だと言うことはできない。いまの年金の保険料が13%代、毎年毎年引き上げられて10年か20年かかけてサラリーマンの年収の18.3%でとめるというのが今の案。スウェーデンでは18%。この18.3に対して連合も日本経団連も強く反対している。日本経団連は保険料の上限は15%まででストップする。その後については、今の年金の枠組みを認めないのでそれまでに改革をしなければならないと主張している。
年金法の審議の間に一時自民党・公明党・民主党の間に合意がなされ、3党で年金問題を一元化も含め19年3月を目途に年金医療介護の社会保障の総合的な見直しを検討するという3党合意がなされた。総理は自分の任期中は消費税の税率を上げないと宣言しているので、大きな税の改革があるとすると19年度である。今社会保障で大きな問題はこれから給付を良くするか、どういう風に社会保障のサービスを充実するかという議論は残念ながら余りなくて、どうやって持続可能としていくか、どうやってお金を賄うかということが議論になっている。
そうすると財布は3つしかない。税金、保険料、サービスを使うときの利用者負担の3つしかない。しかし3つあるというのは嘘で、その3つをそれぞれ払っているのは国民で国民の財布は1つしかない。財布は一つでそれを3つの項目に分けて税金か保険料、サービスを使うときの利用者負担に分けて払っている。2002年の3割負担にした医療保険改革の小泉首相の三方一両損で、三方とは色々な考えがあるが、税を負担する人、保険料を負担する人、利用者負担をする人とも考えられ、それぞれが痛みを伴っている。
ところで与党が強行採決をしたということで民主党が反発し3党合意は宙に浮いている。皆さんが国に払っている税金は40兆円、社会保険庁はじめ保険料は52兆円。国の税金よりも保険料の方が大きい。社会保障がいまの1/4だった1970年ころから30数年間国民は増税は認めなかったが、社会保険料の負担増については嫌かもしれないがこれまでは増加を認めてきた。
年金保険料の引き上げについて「もう嫌だ」と負担増への抵抗感があり、社会保障の負担の問題が天井に来たのかという議論になっている。社会保障のあり方に関する懇談会は年金の改革の中で日本経団連と連合の申し出によって官邸に設置されている。この上に総理も出席する経済財政諮問会議があり混合診療の提案もしている。
◆ 直近の課題
ここの議論が終わったとすれば、あとの課題は医療と福祉の部分。社会保障に必要な税も上げなければならない。この税の中には国の税金は20兆円あり地方公共団体が税から6兆円を埋めている。議論になっている三位一体は社会保障で言うと国と地方の持ち合いをどうするかと言うこと。直近の対応が迫られている課題は三位一体17年度分3兆円の税源を国から地方へ移管するとして2兆4千億が26日にまとまり一息ついている。あとは残り6000億円の問題だ。
ところで三位一体改革ではじめて都道府県が7千億円国民医療保険の医療費負担をする事になった。国保は保険料5割、国が5割だったが内1割を都道府県が持つもので、市町村が苦しんでいるので都道府県の役割を強化し、保険者の再編統合を検討する医療保険制度改革にも関連する。
総理の臨時国会での所信表明演説で混合診療も推進していくと言われていて、政治的には年内にこの混合診療の取扱いも決めなければならない。来年は介護保険制度の改革法案を出さなければならない。来年の予算編成に関連するので12月の中旬までに全て決めなければならないということがポイントになっている。書いてないが障害者福祉法も併せて提案しようとしている。介護保険と障害者福祉の関係の整理も議論になる。年金改革以後社会保障負担の抵抗感が問題になっているが、40歳以上の介護保険料で65歳以上の高齢者介護を支えるという今の枠組みを普遍的な全国民の介護を全国民で支えることに合意が得られるか微妙な時期である。それを経て2005年の予算編成となり将来の社会保障改革というより今年中の課題である。
改革のスケジュールは、2004年年金制度の見直し、97年12月に約束した2005年介護保険制度の見直し、2006年は2年毎の診療報酬と3年毎の介護報酬改定、介護保険料見直しである。介護保険料は3年に一度市町村が決め、高齢化につれ自動的に上がる仕組みで次の改訂は2009年になる。そして医療保険制度改革、2007年に社会保障全体について年金医療介護の一体的改革を社会保障のあり方懇で税か保険かも議論することになる。
介護保険が一番新しいシステムで社会保障改革の牽引車である。医療制度改革は、1990年代医療費の増加の6割は70歳以上高齢者医療費であったので介護改革をしない限り医療改革はできないし、介護保険改革をしないと介護保険料アップを黙認する事になる。介護保険被保険者の年齢も見直しはすべきだという結論になっている。
◆ 介護保険の現状
介護保険ができ、65歳以上の被保険者2165万人から2443万人に、要介護(支援)認定者は74%増え被保険者の10人に一人だったが6.5人に一人に増加し、サービス利用者は300万人になる。在宅サービスは倍増以上になり施設サービスも43%増加した。費用・給付も3.6兆から6.7兆になり年13%伸びた。90年代の老人医療費は年7.8%の増加率なのでより急速に伸びたことが分かる。2002年の高齢者の医療費は11兆円だから介護保険は医療の半分を超えている。
全国の介護保険の保険料は開始時の2900円から3300円になった。初めに高めに設定したので13%増加で済んだが、推計では今後3年毎の改訂で1000円程度上がる。また介護保険を評価する人が増えた。家族の負担が軽くなったとかサービスや事業者を選びやすくなったということが評価された。一方、在宅で維持できるとか社会的入院が減ったとか地方分権が進んだという評価は高くない。
当初保険あってサービスなしと心配されたがサービス利用者は伸びた。社会福祉協議会等社会福祉法人や医療法人より営利法人の伸びが大きく、NPO法人も倍増した。施設費3兆円は既存の設置主体が握り、在宅は1兆円から3兆円に増え、増えた部分のかなりの部分は営利法人やNPO法人の新興勢力が増やしていると分析できる。介護保険は規制改革の議論のピークの時に行われたので在宅サービスについて法人であればほとんど参入自由である。要介護認定については概ね安定している。
◆ 介護保険の問題点と介護予防
介護給付費の構造は6兆円のうち3兆円が施設、3兆円が在宅である。平成12年と15年の施設利用者の単価は下がっている。施設の単価は月32万円、在宅は15万円で施設が割高だ。在宅は施設の3倍増えているが、増えているところの6割は軽いところの要支援要介護1・2の所の人数増である。中間から重いところは人数も単価も増えているが、一番の増加要因は在宅の利用者増で、要介護認定で要支援要介護1に該当する人は要介護認定該当者の48%になっているという問題がある。
見直しの1番目は施設の割高なところを、3つの財布のうち利用者負担を年金の範囲内でできないかということ。2番目は2400万人の65歳以上人口が3500万人になる2015年問題2025年問題を考えたときこのように人数が増えるのは耐え難いので何とかしたいというのが今回対策の基本。2015年に1945年から1950年に生まれた人が65歳以上の高齢者になり65歳以上高齢者人口3300万人。2025年には65歳以上高齢者人口3500万人だが1945〜1950年生まれの集団が75歳の後期高齢者になる。
2015年2025年を考えるに当たってサービスモデルとして提案しているのが予防重視、痴呆性高齢者ケア(痴呆について名称変更も考えている)で、独居モデルも考える。介護予防は要介護状態の発生の防止、状態がそれ以上悪化しないことで、介護保険の基本理念の自立支援をふまえたものである。軽度者に対するサービスの実態は、ケアマネジメントが単品プランが多く、訪問介護は家事援助が中心で、通所サービスが本当に自立支援に役立つサービスになっているか、特に福祉用具の問題等をかかえている。
要介護認定をしてどういう形で自立ができなくなるかという姿が見えてきた。機能が段階的に障害されていくので、それぞれのステージに応じた予防メニューを考える必要がある。年齢的にも前期高齢者の多くは脳卒中、介護保険は8割が後期高齢者が使っているが後期高齢者ではその割合が減り女性が増えて受給者の7割になる特徴がある。
介護予防のターゲットは一般高齢者と軽症の筋骨格系疾患のある高齢者である。リハビリテーション研究会を昨年夏から設置し今年1月に報告書を出した。リハビリでも脳卒中モデルと廃用症候群モデルがあり、我が国では治療リハビリからスタートしたので脳卒中モデルをメインにやって来た。介護予防のために廃用症候群モデルを重視していく必要がある。脳卒中モデルは要介護3以上の中重度者。要支援要介護1は廃用症候群(生活の不活発な心身機能の低下)モデル。痴呆モデルを開発する必要がある。介護認定非該当者・未申請者および自立しているがハイリスクグループへの地域支援事業とを導入し、要支援要介護者の新予防給付と一貫性連続性のあるシステムにしたい。
老人保健法が老人保健事業を規定したように地域支援事業も介護保健法の中で作っていく。認定で予防給付が適切か介護給付が適切かで分ける。今までのホームヘルプやデイサービスが使えなくなるのかとよく質問がある。既存サービスを再評価して自立支援の観点からより効果的な形に再編成して、取り組める物は取り組みたい。
規制改革・民間開放推進会議でも年金と介護保険のホテルコストの重複を指摘された。特養で低所得者の負担を変えず、一般の所得の方で居住費についてユニットケアの個室6万円、食費48000円の負担、多床室の場合光熱費1万円を考えている。
◆ 小規模多機能地域密着サービス
痴呆性高齢者の問題が大事だと言うことで地域密着型サービスを創設しようとしている。都道府県が指定する一般サービスから見守り・痴呆専用デイサービスの痴呆性高齢者サービス、グループホームサービスは地域密着型サービスに移行し、夜間対応・巡回型訪問介護、小規模系のサービスを地域密着型サービスとし、市町村長が指定し、計画を超える場合の参入制限をする。なお一般的なサービスにも市町村長が指導監督権限をもたせたいと考えている。小規模多機能サービスが今回のサービスの法律および介護報酬上の課題になっている。
もう一つは新しい「住まい」というのを作っていこうと言うもので特定施設を拡大するとともに介護サービスの提供形態の多様化を考えている。
高齢者の住まいのビッグバンが起きた。現行の特定施設は有料老人ホームと経費老人ホームだけだが、バリアフリー、住まいとしてふさわしい居住水準を上げ、住み続けられることの保証をした上で、生活支援サービス、介護サービスをつけて行政の適切な関与をしながら新しい「住まい」を作っていきたいと考えている。パターン1として高齢者住宅は自宅と同じように外から在宅サービスを使う。パターン2は特定施設の新しいサービス提供形態でケアに合うオウトソーシングしてやる。3つ目は現行の特定施設で高齢者住宅がケアを行う:ケアを内在化させたパターン。
◆ 障害者福祉と被保険者の範囲
15年5月社会保障審議会介護保険部会で議論が始まり16年7月30日とりまとめたが、何歳から支えるか何歳までを給付の対象にするか被保険者・受給者の範囲は継続審議になっている。いまは勘弁して欲しいという意見はあるものの、見直しはすべきだという結論になっている。
今も65歳以上の障害者を介護保険でみている。保険優先になる。保険優先公費補完で、これが若い人のところにも行く。介護保険が原則65歳以上と自主規制をしているわけでその規制を取っ払えば若くても要介護認定に該当していれば適用される。現在も65歳以上の障害者に介護保険が適用されており、身体障害者の多数の方は介護保険に統合されているといえる。
講演のあと、会場からはあおぞら診療所の和田氏から混合介護、株式会社参入の評価を問う質問があり、中村局長からは、介護のモデルが正しいとすると混合介護・部分保険は必然でこれしかない。株式会社の参入自由化については自由化自体は実験として避けられなかったが、事後規制がキチンとしていない、とのことである。
杉並区の岡田氏から介護予防プログラムのところで口腔ケアが歯磨き励行と義歯調整となっているが不十分という意見があり、局長から小委員会で検討中でありご意見を賜れば参考にしたい、との答えがあった。
厚労省へ伝える方法は、折角の研究会なのだから意見をまとめて出して頂いたらよいそうだ。湘南中央病院の今井氏から介護予防の具体的内容について質問があり、局長から、介護予防が適応されるかの振り分けを認定審査会でやり、介護サービスとの併給はなく、ケアマネは実際上民間委託をお願いしなくてはならない。新予防給付について給付だから、メニューや支払い方式は一体的に考えていきたい。その際限度額のことなどの問題も出てくるが、いずれにしても検討会で作業中であると説明があった。
講演内容は多岐にわたったがパワーポイントを駆使したわかりやすい説明で社会保障改革の全体像を垣間見ることができた。しかし財源の3つの財布が実は1つというマクロの捉え方は、世代内の格差や世代間の不公平を糊塗するための方便ではないか?法人税や、企業の保険料負担を家計と一つに扱って良いのかも疑問を感じた。あげ足とりになるが、3つの財布が一緒なら三方一両損ではなく、国民が三両損をしたことになり、マクロ経済で誰が三両得をしたか推定する必要がある。 厚労省は介護保険と障害者福祉について統合でなく、受給年齢の拡大と説明しているようだ。介護予防の説明も含め、かつて介護保険創設時にみられた「選択」とか「自己決定」という美しい言辞が姿を消し、「自立」ということが強調される。その「自立」が「車椅子や杖なしで歩ける」という意味だけなら、介護保険以前どころか国際障害者年以前の福祉に逆戻りしてしまう。
講演後局長も意見があれば出して欲しいと言われました。会員の意見が一致するところを世話人会でとりまとめ提言したいと思います。会員の皆さんの年金、介護・福祉、医療に関するご意見を研究会にお寄せ下さい。
送り先 FAX03-5228-1715
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