10.9介護予防を考えるシンポジウム
地域包括支援センターに
現場に疑問と混乱の声も
地域医療研究会とNPO法人・医療と保健と福祉の市民ネット東海は10月9日、名古屋市中区の愛知県産業貿易館で「介護予防を考えるシンポウム」を開き、約200人が参加した。介護保険改革の最大の“目玉”は「介護予防」だが、その姿がよく見えないだけでなく、地域包括支援センターが予防給付の管理事務を背負わされて、地域にじっくりかかわれない恐れもあると、現場に渦巻く疑問と混乱に懸念の声も浮かび上がった。
シンポジストの発言と参加者の質問を報告する。(コーディネーター・中日新聞生活部 高間 睦)
★介護保険制度をスリム化したい
基調講演では、厚生労働省老健局の三浦公嗣老人保健課長が「介護予防が目指すもの」と題して、社会保障審議会介護給付費部会の介護予防ワーキングチームが
8月30日にまとめた中間報告を説明し、介護保険見直しでは「制度をどうスリム化していくか」が課題と強調した。
高齢者人口(推計)は、ことし 9月15日現在、2556万人、総人口の20%と世界で初めて「超高齢社会」に突入。さらに今後10年間、毎年70万人ずつが65歳以上になるという“胸突き八丁”に差し掛かって、介護保険財政も厳しくなっていく。
介護保険制度が発足した2000年度は実績 3.6兆円だったが、05年度予算では 6.8兆円に膨れている。保険料は今は平均3300円だが、現行制度のままでは第3期(2006−08年度)は4300円が必要、給付の効率化・重点化をすれば3900円に抑えられると厚労省は試算している。
要介護認定を受けた人が400万人を超え、給付の受給者は高齢人口の16%に及び、当初の予想12%をはるかに上回っている。サービス利用は在宅対施設は、人数では3対1が、費用では半々で推移してきた。だが、今後は在宅ケアの費用がウナギのぼりになる兆しが見えてきた。
三浦課長は、介護保険がスタートの2000年度から3年間に、給付の伸びは施設が 0.4兆円に対し在宅は 1.2兆円と指摘し、このまま推移すれば保険財政が圧迫されるため「制度のスリム化」の一環に介護予防をあげた。
要介護認定では要支援、要介護1で全体の半数近い。その原因は脳血管性疾患26.6%、加齢による衰弱17%、転倒骨折12.4%と、動かないから動けなくなるという廃用症候群(生活不活発病)が影響している。そこで、介護予防は「生活機能の低下を防ぐ“水際作戦”」と位置づけ「要介護になることを防ぎ、要介護になっても悪化しないよう、できることを増やし“健康寿命”を伸ばす」と言う。
これによって、介護保険は「予防重視型のシステム」に転換し、地域支援事業、新予防給付、介護給付の3本立てにしていく。
そのカギを握るのが独立・中立・公平な「地域包括支援センター」である。社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーの3職種が協働して、総合相談、介護予防、虐待や困難ケースと取り組む。介護予防では、要介護になる恐れのあるハイリスクの人(高齢者の5%)などを対象にする「地域支援事業」のプランと、要支援1と2に認定された人の「新予防給付」のケアプランを立てる。
「予防介護=筋トレじゃない」と三浦さん。通所ケアで、運動機能の向上、栄養指導、口腔ケア、アクティビティをするが、新予防給付では予防訪問介護、予防通所介護などと「予防」をかぶせて16種のサービスがあげられ、うち3つは小規模・多機能ケアなど地域密着型サービスだ。その介護報酬は、継続の必要性から「月極めの包括報酬」とワーキングチームは方向付けしている。
「介護予防は目標ではなく手段だ。筋トレをして車いすに乗り、送迎バスに乗るのじゃなくて、歩けるようにして孫の家へ電車で行く。意欲を刺激し、自主的に生きる“自己実現の達成”が目標だ。それを地域のネットワークが支援する。究極の目標は“まちづくり”である」と三浦課長。
★法改正“3つの論点”
基調講演では続いて朝日俊弘参院議員(民主)が、介護保険法の改正案の審議過程で浮かび上がった“3つの論点”を、次のように指摘した。
゚老人保健法はどこへ?
介護予防で重度化を防ぐ活動は、これまで老人保健法にもとづいて40歳以上を対象にする生活習慣病の予防とオーバーラップしていく。介護保険法の改正でどうなるか、オーバーラップをどう整理するか、厚労省の中でもまだ十分に仕切られていない。
老健法は“他法優先”という“妙な法律”だ。介護保険でやるなら、そちらでどうぞ、となる。次の国会では老健法の抜本改正が課題になる。高齢者医療保険とからめて廃止の声が出るかもしれない。
燉v介護認定の評価に“二つの軸”
これまで要介護認定では「介護に要する時間」というモノサシが使われている。数多い介護動作を一つ一つ「時間」に換算し、それを積み重ねた「時間」で要介護度を決めていく。
介護予防では、介護の「時間」だけではすまない。予防によって「生活の流れ」が変わっていく。縦横を組み合わせた“2つの時間軸”による評価が必要だ。それには、医師の意見書だけでなく保健師、看護師などの評価も必要ではないか。
癇n域包括支援センターがカギを握る
地域支援事業と介護予防は、地域包括支援センターがプランをつくるが、その出来いかんで、良くもなれば、悪くもなる。だが、地域包括支援センターだけで、すべてをできる訳ではない。市町村や地域のサポートが必要だ。
朝日議員は「通常国会の予算審議では介護報酬と診療報酬、そこへ障害者自立支援法が成立すれば、その定率負担もからんでくる」と、転換期の難しさを語った。
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白熱したシンポジウム
シンポジウムには三浦課長と朝日議員も加わって、高知の老人保健施設「あったかケアみずき」の和田節施設長、愛知のNPO法人「地域福祉サポートちた」の松下典子代表、高齢者複合施設「せんねん村」の中澤明子施設長が、それぞれの立場から介護予防を語った。
★福祉は“まちづくり”だ
サポートちたは、知多半島5市5町から参加する39団体、その他の地域から16団体に対して、ヘルパー養成、地域ケア起業、NPO運営などを支援している。会員団体は、介護保険、支援費の事業のうえに暮らし助け合いの子育て支援、配食・移送など自主事業と活動が多彩だ。子ども、障害者、高齢者を包み込んでいる。
松下代表は「福祉活動は“まちづくり”そのものです」。在宅サービスで独り暮らしの高齢者を支え、移送サービスで人と出会っておしゃべりする“たまり場”をつくり、支援費で障害者の家族にレスパイトケアをし、育児支援で母と子が集う。また、ヘルパー養成は「地域の介護問題を考えながら働く住民自治につながっている」と言う。
NPO活動を通して、介護保険に対して、サービス利用を細かく金で縛ったりして「暮らしをどう保障するのかが見えてこない。ケアとは何か、理想論でもいい、豊かなビジョンがほしい」と注文をつける。
生きる・住む・暮らす、その営みを支える活動の中で「介護予防」が必要になり、小規模・多機能ケアとともに、市町村の事業になる。だが、ビジョンがないから市町村によって理解度がまちまち。NPO法人だけでは頑張りきれない。市町村がサポートしてほしい。
また、介護保険の仕組みが「契約」になっているからこそ、介護予防でも「利用者教育」が必要だ。利用者は保険料を払っているからと、自己中心のサービスを求める。だが、契約社会では自己責任でサービスを選択する意識がなければ、介護予防の効果が上がらない。
「コミュニティが崩壊している中で、介護予防、健康づくり、生きがいづくりは、支え合ってこそできることを、利用者にわかってほしい」と松下さんはアピールしていた。
★ケアは毎日が介護予防!
せんねん村は、愛知県でユニットケア第1号の特別養護老人ホームを母体に、民家活用型通所介護、グループホームなどへ多機能化していった。 ケアの理念は「村人の個性、自立、遊び」を大切にし「こころ のびのび、からだ いきいき、いのち きらきら」がモットーだ。
母体の特養は、入居者と職員が1.98対1と手厚く、人件費が70%を占めている。
中澤村長は「新予防給付を見れば、せんねん村でやっていることばかり」と言う。立ち上がり訓練や階段昇降、かむ力を落とさない「健口体操」、味覚、食欲をそそり、誤えん性肺炎の予防をする「口腔ケア」、認知症予防の「毎日ドリル」「音楽療法」を、ずっと続けている。
これらすべては「拘束ゼロ」から出発する。おむつはずしや、経管栄養から経口栄養へ、はいかいの理由を追及、睡眠薬は飲ませず体内時計に任せている。
この自立支援ケアで、村人が元気になっていくと、施設経営はつらい。介護報酬が少なくなる。待機者は増える。だが、予防介護は将来の高齢者のために必要なことだ。
これからの施設ケアについては「大規模施設はつくらない方がいい」、介護報酬は「物にではなく人に支払う」、また在宅ケアでは「バリアフリー法を設定して、暮らしやすい住環境をつくる」こととアピールしていた。
★予防給付の管理事務がおんぶおばけ?
和田さんは高知県と高知市の在宅介護支援センター協議会の会長を務め、介護保険改革についてケアマネジャーや利用者の意向に敏感だ。
発言は題して「地域包括支援センターと介護予防−求めているものは? 現場の混乱と疑問」と問題提起をする。
地域包括支援システムは、地域密着型サービスを軸に「住み慣れた地域で・リスクがあっても・最後まで安心して・安全に・自分らしく(尊厳を
保って)暮らすことができる」ことが求められている。だが、三位一体の行政改革の中で、責任主体は市町村に委ねられ、運営は国の統一方式をとる。介護の社会化から“介護バブル”のような多種多様な事務がかぶさってくる。
心配なのは、地域支援事業と新予防給付の管理事務が地域包括支援センターに集約されること。給付管理に忙殺されて「地域」も「包括支援」も見えてこないのではないか。なぜ、ここまで制度を複雑にしなければならないのか。
介護予防では、予防の概念が不鮮明だ。要介護状態の原因となる疾病の予防なのか、介護の重度化要因についての予防なのか。老人保健事業では集団検診や予防事業は「診断をつけるだけで、予防のプログラムが乏しかった」。その評価もしないで、介護予防を介護保険に組み込んでも効果は期待できるか。
要支援や要介護1では、単品サービスを数多く受けるほど悪化すると、要因に“サービス過剰”をあげている。だが、地域保健研究会の検証では「疾患、認知症、加齢」が要因だった。
また、介護予防では「全国一律の生活管理システム」を採ろうしているが、大都会と農山村では生活環境が全く違う」。新予防給付アセスメントの29項目には「候補者を決め、投票している」、また 8.5課長会議で示されたチェックシートには「俳句の会に参加」とか「地域の高齢者の会食に参加」とかの設問は個人的に過ぎる。
「地域包括支援センターが、新予防給付管理事務に大半を費やし、こんなチェックの仕方で、地域に根を下ろした活動からはずれてしまうのが心配です」
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★介護予防の見えない不安に戸惑い
会場からの質問も地域包括支援センターに集中し「居宅介護支援事業所の関係はどうなるのか」「在宅介護支援センターとの関係は?」と、見えないイメージに不安を告げる。また「地域包括支援センターの役割は無限大のようだが、活かすも殺すもサポート次第ではなく、どういう地域をイメージするか(共同体、家の視点)と思うが、いかに」。さらに「介護予防には一人の人の生活を支えていく視点がなくて残念。全国一律の生活スタイルではなく、地域の個別性(農村・都市)なども考えてほしい」という意見も。
新予防給付については「オプションである運動機能の向上、栄養改善、口腔機能の向上のサービスは、要支援1、2であれば、誰でも受けることができるのか。1次アセスメントでふるい分けるのか」。また、地域支援事業では「ハイリスク者への筋トレ事業は、マシンなしで実施してよいか。支え合い事業の補助金で借った機械は、06年後からは一般の人の健康づくりのマシンに使ってよいか」と具体的な質問が出た。
三浦課長に対して、障害者から「2015年の高齢者介護」では「自宅には施設のような、24時間の安心を」と理念が語られた。だが「障害の重い高齢者が自宅で安全に暮らすには、要介護5の利用限度額36万円では全く少なく話にならない。今度の改正で“独居者の安心”について聞きたい」。 また「医療保険に先駆け介護保険では株式会社の参入、混合介護(利用限度額以上は自己負担)
を実験したが、その評価は? 良かったのかどうか、イエスかノーかでお答えを」
さらに、介護予防の財源や介護報酬の単価改定のスケジュールにも質問があった。
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★介護報酬単価は1月中下旬には決定
これに対して三浦課長は「介護予防の財源は介護保険給付費の3%を充て、基本原則では地域支援事業に 1.5%、地域包括支援センターに 1.5%を振り分けるが、やりくりはあるだろう」。
「地域包括支援センターが対象とする日常生活圏域は人口2−3万人を想定。地域で何もかもできないというが、窓口機能も大切だ。介護サービスだけでなく一般的な福祉にもつなぐために、幅広く事業体と連携をとっていただきたい」
また、新予防給付は「本人の意向を聞くが、意向のままではなく、ニーズをつかんでサービスをする」。地域支援事業の体力増強は、マシンあり、なし、どちらでも良い、とのこと。
予防給付や介護報酬の単価改定のスケジュールは、11月12日の介護給付費部会で、新予防給付、地域密着型サービス、ケアマネジャーの報酬や通所ケアの介護予防の成功報酬について議論、さらに重度の居宅サービス、施設サービスについて議論し、12月半ばにはすべての考え方をまとめる。
その上で、予算編成の中で介護保険に対する
国の負担を決め、1月中下旬には「介護報酬の単位数」が決定する予定という。
これに対して「介護予防は、制度のスリム化とはいえ、これまで要支援、要介護1の給付実績を下回るような報酬単価では、予防効果が望めない。必要な報酬単価を確保すべきだ」と、コーディネーターは参加者の声を伝えた。
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★世界の超高齢化トップランナー
最後に、シンポジストのひとことで「安心して生活できる社会をつくるために、どんな社会保険を築くか、介護保険制度についてきちんと議論できる場がほしい。あまりにも改革の進め方が速すぎる」という声に、三浦課長は「わが国は世界に先駆けて高齢化率20%になった。超高齢化のトップランナーらしい走り方をしたい。現場の声を謙虚にうかがい、改革を進めていきたい」と決意を表明した。