虎の門病院における卒後臨床研修
−必修化された新臨床研修制度の
        流れの中で後期研修を考える−


   虎の門病院 医学教育部 川畑雅照

はじめに
 平成16年4月より医師免許取得後2年間の臨床研修が義務化された。全ての研修医は、内科、外科、救急・麻酔科、小児科、精神科、産婦人科、地域医療の7分野を経験し、指導を受けながら診療経験を積み、基本的な診療能力を身に付けることが必須となった。この新臨床研修制度は『医師としての人格を涵養し、プライマリケアの基本的な診療能力を修得するとともに、アルバイトせずに研修に専念できる環境を整備すること』ということを基本的な考え方としている1)。

 一方で、新臨床研修制度が、どれだけ研修医のニーズを満たしているのかを明らかにした検討は少なく、限られた研修施設の報告を散見する程度である。また、新臨床研修制度が実施された結果、日本全国の臨床研修病院で従来以上に研修医が広く浅くローテートするようになり、研修の現場は激変し同時に様々な問題も生ずるようになった2)。更に、平成18年3月には最初の新臨床研修制度のもとで2年間の研修を修了した医師が後期研修に進んだ。一方、初期研修が大きく変わったのに関わらず、後期研修をどう改革するかについての議論は決して十分とはいえない。そこで、本稿では、当院における初期研修および後期研修を含めた臨床研修の現状と問題点を明らかにし3)、現状の新臨床研修制度を活かすために、どのような後期研修が目指すべきかを考えてみたい。

1 虎の門病院の臨床研修
 虎の門病院では、昭和35年より医師卒後研修(レジデント制)を開始しており、過去に900名以上の医師が研修を終了している。当院の臨床研修の理念は、第2代冲中重雄院長の言葉にあるように、『富士山のように裾野が広く、かつ高い専門性を持った医師を育てる』ということであり、開設時より高度専門診療を可能にする分化した診療体制を構築し、それに即した教育を行ってきた。このため、これまでの当院の臨床研修は、主に外科系と内科系に分れて、専門細分化された診療科をまわるセミ・ローテート方式で行われてきた。しかし、平成16年度より義務づけられた新臨床研修制度に先立ち、1年前倒しで平成15年度よりスーパー・ローテート方式を導入した。

 前期研修医の定員は18人(内科12名、外科6名)で、平成18年4月現在、合計77名の研修医が(1年18名、2年18名、3年17名、4年16名、5年8名)が研修を行なっている。当院の研修医は、特定の大学医局からの派遣などのシステムはなく、独自に全国からの公募で採用している。過去5年間の101名の研修医の出身大学は、日本全国46大学に及んでいた。最近5年を振り返ってみると、当院の常勤医の総数は270〜285名で推移している。その中で、研修医の総数は75〜80名であり、研修医の占める率は25〜30%と非常に高率となっている。当院の実際の診療そのものが、研修医に大きく依存し、研修医なしでは成り立ち得ないことを示している。このことは、とりもなおさず、適切に研修医を教育しなければ、当院の診療は根本から崩壊することを意味している。

 主な研修場所は、大規模総合病院である東京都港区の本院 (901床、 外来2、244名/日)と、地域中核病院である神奈川県川崎市高津区の分院(300床、 外来525名/日)の2施設である。地域保健医療については、同じ国家公務員共済組合の老人保健施設(ケア中目黒)および以前虎の門病院で勤務していた医師の勤務する診療所(あおぞら診療所、新家クリニック、新浦安虎の門クリニック)へ研修をお願いしている。他にも精神科閉鎖病棟研修を武蔵野病院へ、救命救急研修を日本医大の救命救急センターに依頼している。
 当院では、レジデント制が開始された当初より、院内に宿舎を設け研修医の24時間常駐体制を原則としてきた。現在、1年目の研修医は1年間の院内居住(新臨床研修制度前は、初期研修の2年間)が義務づけられており、2年目は近隣の宿舎が確保されている。研修医の身分は、期限の定められた正規職員であり、社会保険は完備されている。研修医の給与は比較的高めであり、他の臨床研修病院と比較して遜色はない。

2 虎の門病院の初期研修プログラム
 プログラムは内科系と外科系の二つで、ともに2カ月を1単位とし2年間で12単位をローテートする(図1)。1年次の麻酔・救急、2年次の小児科・産婦人科と精神科・地域医療のそれぞれ1単位ずつ計3単位(各科1カ月ずつ6カ月)が共通で、残り9単位(18カ月)を、内科系では内科8単位(16カ月)と外科1単位(2カ月)、外科系では外科6単位(12カ月)と内科3単位(6カ月)をローテートしている。

 当院の初期研修プログラムの特徴は、@専門細分化された診療科のローテートである、Aそれぞれ中心となる内科、外科の研修期間が長い、B主科以外の研修期間が比較的短い、C選択機間がない、などの点である。臓器別に専門細分化され、高度な専門医療を提供している当院の特性を活かしたプログラムとなっている。本来の厚生労働省の目的とするプライマリケアよりも、内科・外科の専門医の育成(後期研修)を見据えた臨床経験を重視したものである。このようなプログラムとなったのは、実際にスーパー・ローテート研修を導入した平成15年に厚生労働省の示した基準と厳密に適合させたプログラムとした結果、細切れのローテートとなり、研修医の不満が続出した。彼らと議論を重ねながら調整した結果、研修医の希望で中心科のローテートを長くして、選択期間を設けないという形に落ち着いたという経緯がある。

3 虎の門病院の研修の現状
 虎の門病院の研修の現状を明らかにするため、当院の1年目〜6年目の研修医を対象に、当院の臨床研修についての意識調査を行った。アンケートは、無記名で選択および自由回答式とし、平成17年10月に実施し研修医75名中、60名より回答が得られた(解答率80。0%)。
まず、虎の門病院の研修を志望した理由を質問したところ、「豊富な症例」、「高い臨床の質」、「研修病院として有名」、「充実した診療体制」、「専門医療の充実」の順であった(図2)。次に虎の門病院の研修のメリットについて質問したが、志望理由と同様で、一位が「豊富な症例経験」であり、次いで、「高い臨床の質」、「専門医療の充実」、「充実した指導体制」が挙げられていた (図3)。当院の診療は、そのほとんどが一施設完結型であり、他の施設と連携して患者のやりとりをしながら診療分担することは少ない。特に急性期医療については当院で治療できないために患者を他の病院に転送させるようなことは稀である。当院では市中診療から高度専門診療まで、大手術から緩和ケアまで、一連の治療経過の流れの中で、様々な状況の症例を経験することができる。このような一施設で診療が完結することをメリットとして挙げた研修医もあった。

 一方、当院における研修のデメリットとしては、「救急研修が不十分」、「指導体制が不十分」、「手技・手術が少ない」、「プライマリケア研修が不可能」、「後期研修に残るのが困難」などの意見が多かった(図4)。当院のロケーションや設置基盤、経営母体、病院の性格などから考えても、地域に根ざした医療を行うことが困難であり、広くプライマリケアを学びたいという希望もある研修医にとっては、物足りなさを感じるかも知れない。

 当院における研修の最大の特徴は、実際に経験する患者数が非常に多いことである。研修医は診療チームの一員とし、責任を持って入院診療にあたる。診療科によって差はあるが、通常10〜20人の患者を担当し研修を行なう。また、当院は市中病院ではあるが、紹介患者も比較的多いため、common diseaseからrare diseaseまで多彩な症例を経験できる。受持ち症例数が多く、その種類も多彩であることは、研修する上での大きなメリットではあるが、同時に業務が多忙となり負担が増加することも意味する。この点について、実際に研修医がどう感じているかを聞いてみたところ、業務の負担については「きつい」、忙しさについては「忙しい」という意見が、それぞれ約70%であった(図5)。しかしながら、受持ち患者については、「やや多い」という回答が57。6%、「適度」が32。2%であり、「非常に多い」という回答はわずか6。7%であった(図6)。そして、今後この受持ち患者数をどうしたいかを聞いてみたところ、「このまま」でよいという意見が55。9%と過半数を超えた(図7)。研修医の多くが、当院での研修は決して楽ではないが、数多くの症例を経験できるメリットを感じていることが伺えた。

 救急研修は、新臨床研修制度では義務づけられた研修分野であり、多くの研修医が十分な症例経験を希望している。当院の救急診療は二次救急であり、重症の外傷や熱傷はほとんどなく、DOA(dead on arrival)も比較的少ない。施設的にも、日中の救急患者は各科の外来処置室で、夜間・休日は時間外用の急患診察室で対応しており、24時間体制の救命救急センターのような設備は存在しない。また、救急専従の医師や看護師も確保されていない。平日の日中は、主に一般外来を担当する3年目以上の研修医や卒後10年目以下の若手の医員が通常の外来診療をしながら、急患当番という形で救急患者に対応している。夜間休日は、上級当直医の指導の元で、当直の研修医が診療を担当しており、専門的な診療が必要な場合は各科のオンコール医師と連絡をとることができる。当院では多数の外来患者を診療しているため、当院かかりつけの患者が夜間休日に急変して救急外来を受診することも多く、当直で診療する患者の数は決して少ないわけではない。1回の当直で診療する救急患者は10〜20例、入院を要する患者は少なくとも2〜3例はある。平成14年度の集計でも、1年間の時間外の救急患者は10、372人に及び、救急車の搬送数も年間3、229であった。当直回数は、1年目の研修医で4〜6回/月であり、学年が上がる毎に頻度は少なくなり、後期研修医では2〜3回/月程度である。

 このような救急研修に対して研修医がどのように考えているかを聞いてみたところ、当直回数については「適度」と答えたものが76。9%と大多数を占めたにもかかわらず、研修内容については「悪い」が25。9%、「やや悪い」が48。1%であり、約4分の3の研修医が、当院の救急研修に不満を持っていた(図8)。問題点について、自由回答式で書かれた内容を要約すると、大きく二つの問題にまとめられるようであった。一つは、人的・設備的な問題で、救急専門医の不在を多くの研修医が指摘しており、当直の指導医によって研修医への指導の差も大きいという意見も聞かれた。また、救急外来の看護師の不足や、設備投資が不十分であるという意見もあった。もう一つは、症例経験の問題であり、三次救急が経験できない、酩酊が多い、common diseaseが少ないなどが挙げられていた。

 勉強会やカンファレンスについて質問したところ、頻度については「適度」と「少ない」が、ほぼ半数ずつであり、その内容については「非常に役立つ」、「役立つ」が合わせて60%を越えていた(図9)。実際のところ、毎日のように、院内のどこかで、カンファレンスや勉強会が開催されており、その頻度は決して少ないわけではない。しかし、研修向けの教育的なカンファレンスは研修医の自主的な運営に任されており、系統だった講義型式の勉強会が少ないことが、一部の研修医の不満として聞かれた。内容については、特に診療カンファレンスについては、各診療科の指導医が比較的質の高い議論をしており、これに対して多くの研修医が満足しているようであった。しかし、一方で、当院では、受持ち患者数が比較的多く、病棟業務が多忙な傾向にあるため、研修医向けの勉強会や講義などを開催しても、研修医の出席率は決して高くないのが現状である。しかし、教育的なカンファレンスの頻度が少ないという意見は、決して少数派ではなく、機会の充実は必要と考えられた。また、研修医が出席しやすい夜遅い時間や早朝に勉強会を開催するなど、時間の工夫も必要と考えられた。

 当院の常勤医の40%(内科と外科だけでみると約60%)が、当院のレジデント出身者であり、研修医の気持を理解できる指導医が多い点は、研修医にとって大きなメリットと考えられる。また、言い過ぎかも知れないが『各科の権威が白衣を着て院内を歩いている』と揶揄される程、特に部長クラスの医師は、教科書や総説を執筆するような各領域の専門家が多く、研修医にとっては相談相手には事欠かない状況である。このような状況の中で、指導医および指導体制について聞いてみたところ、「普通」と答えが最も多く46。8%で、「よい」「非常によい」と答えた研修医が約3分の1であった(図10)。当院は、大学病院などと比較すると、指導医やスタッフの数は少なく、教育専従の医師もいない。また、指導医も日々の診療で極めて多忙であり、いわゆるスプーン・フィーデングの教育を行うことはできない。研修医の中には「一部の病棟では、レジデントが放し飼いになっている」との批判があるものの、「任されて診療に当たった方が勉強になる」という意見も聞かれた。当院の多くの診療科では、自由回答の研修医の意見にあるように「指導医を捕まえて色々質問すれば必ず答えてくれるが、指導医の方から手取り足取り指導することはない」のが現状ではないかと考えられる。このような研修医教育の伝統は、自らも先輩の背中を見て学び、忙しい合間を縫って上級医を捕まえては教えてもらっていた経験をもつ当院のレジデント上がりの指導医が多いことにも起因しているのではないか。このような状況であるため、積極性のある研修医と、やや積極性に乏しい研修医の間で、指導医や指導体制に対する評価が分れたのではないかと思われる。しかしながら、積極性のある研修医だけが育つのでは、研修システムとして、最良のものでないことは自明であり、当院においても、特に当院のレジデント上がりの指導医の研修医教育に対する考え方について意識改革を図る必要があろう。

4 初期臨床研修の必修化が与えたインパクト
 初期臨床研修の必修化について議論する前に、社会がどんな医師を要請しているのについて少し考えてみたい。多くの国民は、日本中どこでも、安心できる質の高い医療を受けられることを期待している。そして、プライマリケアのできる医師、超高齢化社会へ対応できる医師、地域や僻地で診療する医師、などの、赤ひげ的なヒューマニズムのあふれる、専門診療に捕らわれない総合診療能力の医師が求められる傾向がある。一方で、 clinical oncologistと言われるがん専門医などの特殊な専門医の不足、移植医療などの高度専門医療の欧米との格差、産婦人科や小児科などの専門医の偏在、テーラー・メイド医療など医療の個別化などの要望もよく聞かれる。このように、国民は、総合診療的な医師と極めて狭い領域の専門医という、相反する医師像を要望している。しかし、あらゆる医師が高度な専門診療能力と幅広い総合診療能力を備え持つことは通常困難であろうと思われる。

 さて、このような多様な医師像が求められる現代社会の中で、初期研修が必修化されたのは、欧米諸国に足並みを揃えるということだけではなく、様々な社会的背景があった。医療の質が問われる時代への変化、行き過ぎた専門診療の反省、全人的医療やプライマリケアの重視、救命からQOLなど、時代ともに変わった大きな流れである。そして、医師の臨床研修に対する考え方も急速に変化した。このような時代の変化に対応することが新臨床研修制度の大きな目的の一つであろうと思われる。そして、厚生労働省は15年以上の年月を費やして、その研修内容を細かく定め、ようやくこの新臨床研修が制度化された。その原形は、平成元年に当時厚生省の諮問機関であった医療関係者審議会臨床研修部会が示した『臨床研修の意義』まで遡ることができる。この中には、幅広い臨床実務を経験、暖かい人間性と広い社会性、医の心、全人的医療など、現在の新臨床研修制度の基本となる考え方が、綺羅星のごとくひしめいている。

 このような経過で新臨床制度の必修化が開始されてから、研修医の大学離れの話題がマスコミを賑わせている。これは市中病院と大学病院の性格の違いを考えれば致し方ないことであり、新臨床研修制度の実施前から想定内の結果はないかと思われる。つまり、単に厚生労働省の必修化した新臨床制度が、たまたま市中病院で実施しやすく、大学病院では少し無理があっただけではないかと考えられる。つまり、市中病院のメリット、例えば、common diseaseを中心に多くの症例を経験できること、プライマリケアや救急診療から在宅医療や緩和ケアまで幅広く体験できること、基本的な手技や処置も数多く習得できることなどが、そのまま新臨床制度でも大きなメリットとなっただけのことある。機を見るに敏な現代の研修医が、初期研修の場として優位性の高い市中病院を選択するのは至極当たり前のことではないだろうか。

 旧制度のもとでは研修医の約70%が大学病院に集中していたが、新臨床研修制度の開始後は年々研修医の大学病院離れが進み、市中病院を希望する医学生が増加した。例年報告されるマッチングの中間公表をみても、市中病院を1位希望とした医学生は。平成16年度が54%であったが、平成17年度が63%、平成18年度が66%と、医学生の市中病院指向の傾向は年々顕著となっている(図11)。そして、平成18年度のマッチングの結果、市中病院の研修医の割合が51。7% と、はじめて大学病院を上回った。厚生労働省医政局は、この原因について「待遇もあるが大学病院では診療科間に壁があって、充実した研修ができないケースもあるため」と分析しており、「医学生が症例に接する機会が多い市中病院を選ぶ傾向は今後も続くだろう」としている。

 当院における採用試験の競争率についても、新臨床研修制度の開始前は約3倍 (平成13年3。2倍、平成14年3。9倍、平成15年3。2倍)であったが、平成16年以降は約6倍(平成16年6。4倍、平成17年6。7倍、平成18年5。6倍)と倍増していた(図12)。
 このような研修医の大学病院離れが進む中で、小児科医や産婦人科医の不足、あるいは、地域病院おける医師の離職の問題など、そもそも医師研修とは余り関係のない、別の深い根のある医療問題についても、全て新臨床研修制度が悪いかのように責任転嫁され、槍玉に挙げられている現状は由々しき事態ではないだろうか。

5虎の門病院の後期研修
 虎の門病院では、例年35〜40名の医師が後期研修医として学んでいる。当院は後期研修医が多く存在し、1-2年目の前期研修医と3年目以上の後期研修の比率は約1:1で良好なバランスである(図13)。最近、いわゆる屋根瓦方式と呼ばれる指導体制が教育効果の高いことが知られるようになり、広く推奨されている。この屋根瓦方式では、初期研修医を後期研修医が、指導医が研修医を指導し、更に病棟責任医師がこれをスーパーバイズするという形式で、重層的に研修医教育に関わる指導システムである。このような指導体制の実施するためには、十分な後期研修医の確保が必要であり、当院での後期研修医の数は必要にして十分ではないかと考えている。

 厚生労働省が平成17年に新臨床制度下で研修中の全国の2年次の研修医 4378名にアンケートしたところ、大学病院で初期研修を行っている研修医(2339名)の64。1%がそのまま大学病院での研修を希望しており、逆に、市中病院で研修をしている研修医(2039名)の56。4%が市中病院での後期研修を希望していた(図14)。平成17年の虎の門病院での初期研修医21名に対する調査でも、当院の後期研修を希望するものが最も多く66。7%であった(図15)。実際に過去10年間の2年間の初期研修終了後の進路を検討したところ、当院で後期研修を継続したものが76。2%であり、大学病院あるいは他病院へ研修先を変えたものが24。8%であった(図16)。

 虎の門病院の後期研修(図17)は、3カ月を1単位とし、3年間のローテート研修を行うプログラムとなっている。後期研修では、専門診療科あるいは内科や外科のサブスペシャリティを固定して、ストレート研修を行う施設も少なくない。しかし、当院では、後期3年間を一つの科に固定して研修することはせず、ローテートを義務づけている。後期1年目では、希望を踏まえた上での4単位全てをローテートし、この1年間で各自が将来どのサブスペシャリティを選択するかを見極める。一方で初期研修における経験の偏りを補完し、認定医を習得するのに必要な症例経験を重ねることを目標としている。そして、後期2年目は6カ月までの一つの科に固定して研修することができ、専門研修のスタートとして位置づけている。そして、自分の専門診療に関連した診療科を3カ月ずつ2科ローテートするが、この際、放射線科や病理科、他施設の救命救急センターなども選択できる。そして、3年目には12カ月一つの診療科に固定して研修することが可能であり、本格的な専門研修となる。この時期には、将来の当院の診療の担い手として、当院の常勤医としての進路を提示される後期研修医も少なくない。昨年4名の後期研修医が最終学年を修了したが、現在そのうち3名が当院の常勤医として働いている。

6 後期研修の必要性と理想的な後期研修
 では、なぜ後期研修が必要なのであろうか?その理由として、大きく以下の4つが挙げられる。@初期研修だけで不完全であることは自明で、初期研修後にも継続した臨床研修が必要であること。A医師となって3〜5年目が最も実力が伸びる時期であり、この時期に適切な施設で、適切な指導医について教育を受けることは、その後の医師としての技量を決定するほど重要であること。B初期研修で身に付けた幅広い総合的診療能力を維持しつつ効果的な専門診療を行うため適切なプログラムが必要であること。C社会的な要求も高度化し、認定医や専門医の習得が必要とされるようになったこと、である。後期研修病院を紹介するイベントに参加した462名の初期研修医に対して後期研修先を選ぶ際に最も優先する事項について聞いたところ、最も多いかった回答は、プログラム内容が41。3%、次いで指導体制が33。5%、症例数が14。0%の順であった3)。少しバイアスのかかった研修医に対するアンケートの結果ではあるが、初期研修の場合、研修病院の知名度や立地条件、給与なども考慮さる傾向があったが、後期研修においては、より研修の実を優先して研修先を考える傾向があることが伺えた。

 では、実際に研修医は、どんな施設でどんな後期研修をしたいと思っているのであろうか。先に述べた初期研修と同様に市中病院と大学病院の比較で議論すれば、後期研修においてその優位性は逆転する。大学病院では、指導者の多くは専門医で、全体の症例数は少ないがrare diseaseを扱うことは多く、研修内容は専門的医療や高度先進医療あるいは基礎的な研究まで含まれ、専門的な高度な手技を経験できるチャンスもある。 大学病院の研修のメリットが専門研修という目的に合致しやすく、大学病院は後期研修の場として大きく優位性を保っている。実際に、研修医の多くは大学へ戻りたいという意向を持っていることは事実である。前述した厚生労働省が2年次の研修医 4378名にアンケートした結果によると、大学病院を希望する研修医が44。1%で、市中病院を希望する研修医(40。1%)を、わずかながら上回った(図18)。この理由として、既に述べたような専門研修や専門医習得にあたって有利であるのみでなく、寄らば大樹の影的に医局に所在する安心感や、先が見える安心感も大きいのではないか。また、実験を行うことや論文を執筆することに興味もあるだろうし、学位に対する魅力も捨てがたいものがあろう。また、初期研修で負け組となった大学の医局も、このままでは人手不足で医局の維持ができなくなるという危機感から体制が変わりつつある。研究中心から診療や教育へパラダイムシフトし、自由度の高いプログラムを準備するなど、後期研修の獲得に必死になっている現状がある。

 一方、市中病院の後期研修は、経営的な側面が軽視できないため、厳格な定員制があり、身分と待遇は補償されるが、希望に応じた配属は困難であることも少なくない。また、教育的な配慮と同時に経営的な配慮の上でローテイションが規定されるという点が研修医にとってデメリットとなる。また、市中病院は医師プール機能が不完全であり、関連病院や将来継続的に働くことのできるポストを提供できる機会が少ないことも問題点であろう。また、専門医として要求される科学者としての考え方、すなわち、サイエンスとしての医学教育は、市中病院では実施されにくい。また、専門医として腕を磨くための稀な疾患の症例経験や専門的手技の経験は少なく、指導医の数と指導する時間も不足がちであることも、市中病院の劣る点の一つであろう。

 では、どのような内容の後期研修が理想的なのであろうか?これを、総合診療能力と専門診療能力の変化で議論してみたい。図19に示すように必修化前は、ストレートあるいはセミ・ローテート研修が主であり、初期研修では専門診療能力と総合診療能力とが平行して習得された。3年以降は専門診療能力が延び続け、逆に総合診療能力は低下し、10年後には専門診療に大きくシフトした専門医が養成されていた。しかし、図20に示すように、必修化された新臨床研修制度においては、初期研修では総合診療能力が大きく伸び、専門診療能力はあまり身に付かない。しかし、後期研修を限定したサブスペシャリティの専門研修としてしまうと、後期研修期間において専門診療能力が大きく伸びる反面、せっかく初期研修で習得した総合診療能力が低下し、結果的に10年後には必修化前とそれほど変わりない専門医が養成されることになり得る。しかし、図21のように後期研修を工夫して、総合診療能力を落とさず専門診療能力を伸ばすシステムとすれば、10年後にも総合診療能力を維持した優れた臨床医を養成できるのではないかと考えている。このためには、初期研修と後期研修を、それぞれ区切られた2年間、あるいは、3年間の技術習得期間とするのではなく、連続した医師養成の流れの中で捕らえる必要があろう。安易にサブスペシャリティに固定した後期研修とするのではなく、研修医の希望に応じた自由度の高いローテート研修を原則とすべきではないだろうか。

 初期研修で何を研修すべきか、既にかなり議論されており4)、また、今回の後期研修でも具体的な到達目標や経験症例が掲げられている。しかし、後期研修では何を目指すのかということは明確にすることは困難であろうが、我々は以下の3つの段階を考えている(図21)。第1段階は、よき臨床医を育てることで、例えば、内科認定医を取れる位まで教育することであり、このレベルは臨床研修指定病院としての役割に相当する。第2段階は、優れた専門医の養成で、例えば、循環器内科専門医を育てるような研修であり、別な言葉で言えば、学会認定施設としての役割に相当する。そして、第3段階は、後継者の育成で、診療体制の向上あるいは病院機能維持のために常勤スタッフを育てることである。そして、この段階が上がる毎に、活力のある働き手の確保することを意味する。

 では、後期研修は何をもって評価されるべきであるのか?初期研修と異なり、具体的な到達目標を設定することは困難である。そのアウトカムの評価として、専門医の習得率、在職継続率、進路や就職先、優秀なスタッフの一人として病院機能を維持できたかどうか、などが想定されるかも知れない。しかし、これらの評価は、個々の研修医のレベルに立ち返って評価されるものであり、まず研修医が満足できる研修ができたかとういことと、そして、最終的によき臨床医が養成されたか、ということではないだろうか。

 理想的な後期研修のためには、まず後期研修プログラムはストレート研修としないことが重要と考える。後期研修ではGeneralからSubspecialtyへ移行するプログラムが理想であり、幅広い初期研修と狭く深い専門研修を埋めることが必要である。また、後期研修=専門研修ではないこと、後期研修=学位取得のための研究ではないことを、後期研修のプログラム管理者が十分理解しなければならない。後期研修プログラムは、個々の将来像を見据えたキャリア構築の基盤を形成するため包括的なものであることが必要であり、初期研修よりも柔軟で個別性の高いプログラムでなければならない。最終的には、研修医自らが自分は『どんな医師になりたいのか?』ということを常に自問自答しながら5)、人生を決める最も重要な時期である3〜5年目を、どこで、どう過ごすのかを考えながら、研修を進めることが重要と考える。

7 おわりに
 平成16年度に新臨床研修制度が開始されて3年目となり、この春、多くの混乱の中で育った第一期生が研修修了に至った。そして、劇的に変わった初期臨床研修制度もようやく定着しつつある。しかし、これだけ激変した初期研修に続く後期研修はどう変わったのか?実際には、多くの研修施設で必修化前と何ら変わらない後期研修を踏襲しているのが現状ではないだろうか。新臨床研修制度のもとで習得した総合的診療能力を維持し、将来的にバランスの取れた優れた臨床医を育てるため、今、後期研修を改革する必要があるのではないか。今後も必修化された初期研修との連続性において、理想的な後期研修のありかたが活発に議論されることを期待したい。