新臨床研修制度を考える
       諏訪中央病院 宮本真理夫

 2006.6.11 総評会館にて“新臨床研修制度を考える”のシンポを開催しました。地域医療研究会としては、研修制度問題に関する2回目のシンポです。今回、あえて6月に開いたのは、初期研修終了後の医師の動向がはっきりした時点で、後期研修問題も含めての、新臨床研修制度を考えるシンポとしたかったためです。

 今回のシンポジストは、前回に引き続いて厚生労働省、医政局医師臨床研修推進室長・宇都宮啓氏、大学の立場から、札幌医科大学地域医療総合講座教授・山本和利氏、都市部大病院の研修指導者の立場から、虎ノ門病院呼吸器センター内科・医学教育部・川端雅昭氏、地方の診療所の立場から、佐久総合病院附属小海診療所長・由井和也氏、研修医の立場から、三島社会保険病院研修医・小池宙氏、の5人にお願いしました。

 内容につきましては、それぞれのシンポジストのまとめを参照して下さい。概略すると、宇都宮氏からは、「平成17年度『臨床研修に関する調査』研修2年次生の(進路について)中間報告書」をもとにお話していただきました。この中で後期研修においても大学に医師は戻ってきませんでした。大学での勤務、研修に48.6%に留まっており、医学博士号取得にほぼ7割の人が意味を認めていませんでした。また、幅広い病気の治療にかかわる診療に将来進みたいと考えている研修医が約13%、ある程度の専門性を保持しながら、幅広い診療をしたいと希望する研修医も含めると53%にも登りますと、明らかに研修医の意識の変貌が認められました。私達にとっては勇気づけられるデータでした。また、希望者の少ないと言われていた小児科は第3位、産婦人科は第8位、麻酔科は第5位と意外な結果でした。

 地域医療、地域保健の研修については高く評価しており、堅持したいとのことでした。山本和利氏は札幌総合診療部で長年、北海道の地域医療に取り組んでこられた立場から、地域で求められているのは専門家ではなく、ジェネラリストである、地域医療は「ホンネ」で語り、「夢」を語らないとダメだ、地域おこしも含めた大きな目標を認定し、多くの人を巻き込むことが肝要、パラダイム・シフトが必要、後期研修においてジェネラリストを育てるプロジェクト(ニポポ・プログラム)を具体的に提言され、既に実行している力強い発表をしていただきました。地域医療に携わる人をインスパイヤーする素晴らしい提言でした。

 佐久総合病院小海診療所・由井和也氏からは、長年にわたる佐久総合病院の医師研修の歴史、実績を呈示していただきました。それは佐久総合病院の理念にもとづくものであり、いまさらながら若月先生の先見性、志の高さに感服しました。由井氏の診療所での地道だが確かな医療展開、研修医指導は深く心に染み入りました。

 続いての虎ノ門病院・川端雅昭氏の発表も、日本で最も昔から研修制度を履行していたといっても過言でない、虎ノ門の長い歴史と実績に裏打ちされた重厚なプログラム紹介でした。理想的な後期研修のあり方として、後期研修はストレート研修としない、個々の将来像を見据え包括的な研修プログラム、多施設のネットワークに立脚した研修プログラムをと、有意義な発言でした。

 最後の研修医・小池宙氏からの発表は、ネットを駆使した豊富な情報書をもつ彼ならではの、同世代の研修医の生の声を聞かせてもらい参考になりました。
 後半の討論の場で大学からの巻き返しが急であること、地域医療、地域保健、研修は必要でないとの意見が大学教授の大勢である事、また、研修が見学的であることへの非難、新臨床研修制度をやめさせたいと大学関係者は強く望んでいる等の情報提供がありました。

 また、フロアからの医学生からの発言によるとマッチングのため市中の研修病院へ実習にいきたいですが、大学が春休みも夏休みも大学の実習を義務化して、外の病院実習をできなくさせて、大学への囲い込みを図っていますと、なりふりかまわない大学のまきかえしの実状を語ってくれました。また、専門医取得のため大学での研修を義務づけようとする学会の働きもあるとのことでした。この新臨床研修制度を再び逆行させてはならないと強く感じています。後期研修の動向からも、大学の医局が再び医師供給体制の主導権を握ることは不可能と考えますが、この新臨床研修制度による新しい芽をつみとってならないと思います。また、医師不足、医師偏在の問題もこの新臨床研修制度のために発生したのではなく、もともとの問題が顕在化しただけです。

 フロアからの発言で明らかなように日本の医師数は絶対的に不足しています。G7(先進7カ国)の中で最低の医師数、OECD加盟国平均からよると12万人も不足しています。10万人あたりの医師数はOECD平均で290ですが、日本で290を超えている都道府県はありません。医師数の多いと言われている東京でも290に届きません。いま、日本の医療は地殻変動を起こしています。医師と患者の関係性の変貌、夜間救急のコンビニ化現象にみられる、患者と医療体制のミスマッチ、医師の意識の変化、女性医師の増加、労働強化、過重労働、“医療の安全性”“医療の質”と“効率化”がせめぎあっています。

 いま、時代に即応した医療のあり方が求められています。そのためには新臨床研修制度を後退させることなく(大学の巻き返しに屈せず)21世紀の医療を担う、良質の医師の育成にむけて、そして、その新しい医師とともに質の高い、軟らかな、あたたかい医療をめざしたいものです。
 参加者はやや少なめでしたが、このシンポジウムでの熱い議論は、地にしっかり足のついた議論であり、現状は厳しく、将来もけっして明るいものではありませんけれど、参加者を元気づける会であったと思います。

 また、新臨床研修制度によって、白日の下にさらされた日本の医療の矛盾の根底にあるのは長期にわたる医療費抑制策です。明らかになった日本の医師不足に対しても、医師が増えれば医療費が増大するとの論理で、明るい見通しはたっていません。今秋に“日本の医療をかえよう”とまたシンポジウムを行います。よろしくお願い致します。
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