静かな時限爆弾
−アスベストの恐怖とその対策−
古谷杉郎
● 「いしわた」は非常に古く、多様に使用
「石綿」は歴史的に非常に古い存在で、ギリシャ神話にも竹取物語にも出てきます。
「せきめん」と読むか「いしわた」と読むか決まりがないが、最近厚労省は「いしわた」で統一したということなので、「いしわた」にします。
石綿は、様々な特性を備えているうえに安いことから、最盛時には3000種類を越える用途がありました。それゆえ 日常生活の多様な処に使われていました。(例えば、酒の濾過のフイルターにも使われていたとか、ベビーパウダーやクレヨンに不純物として含まれていたとして問題になったこともあります。)
● インダストリアルキラー
ところが石綿が、発ガン物質だということが分かってから、奇跡の鉱物から、悪魔の鉱物に代わり、世界最大のインダストリアルキラーといわれ、これほど人体実験が行われた物質はないとも言われています。
ILOによれば、毎年200万人と推計される労災職業病による死亡者のうち、石綿だけで毎年10万人を占めているのに、なぜ禁止されて来なかったのかが問題なのです。
● 破棄処理が難しい
近年は主に床材・壁材・天井材等々の建築建材に使用されています。アスベストを使用しないで、家を建てることはほぼ不可能だったのではないかと思われます。
昨年の10月からアスベストを含む建材は作ってはならないとなりましたが、それまでに生産された在庫品は販売していてよろしいという状態です。
アスベストが含まれている製品かどうかのチェックは、業界団体の自主的表示の「a」マークだけで、それが印刷された包装紙が破れたり、製品に刻印されている箇所が破損していたら、使用する側はチェックの方法がないのです。さらに始末が悪いのは燃えないので、廃棄処理が大変難しいのです。
吹き付け石綿だけは特別管理産業廃棄物(特官)として、特別の取扱いが求められていますが、他の建材は一般建築廃材の扱いです。溶融処理という技術はあるのですが、まだコマーシャルベースでは動いていません。なかなか身のまわりから消え去ることがないということです。
● 粉塵飛翔が大問題
成形板として固められた状態であれば、破断させなければ、粉じんとして飛散することはありません。吹き付け石綿等は、飛散性が高いので、その除去にあたっては二重にビニールで封印し、内部の気圧を下げて、粉じんが外部に飛散しないようにしたうえで、作業者はフルフェイスの防じんマスクをして除去作業を行いますが、作業服は使い捨てで、着替えの際にはエアーシャワーを浴びて、粉じんを外へ出さないようにします。汚染された作業服等も除去された吹き付け石綿と一緒に厳重に密封して処理します。これを業者に確実に実施させることが必要なのです。
● 関連疾患
アスベスト関連疾患としては、石綿肺・肺ガン・中皮腫・良性石綿胸水・びらん性胸膜肥厚があげられます。
石綿肺はいわゆるじん肺のことで、高濃度のアスベスト粉じんを長期にわたって吸った場合に起こる疾病で、石綿肺はいずれ減っていくと想定していますが、当面まだまだ現われるでしょう。
肺ガンは、死亡数が最も多いアスベスト疾患で、肺ガンの原因は多々ありますので、お医者さんはたばこを吸ったことがあるかは聞きますが、アスベストを吸ったことはあるかとは聞かないので、原因の特定がアスベストであるとは断定しづらいのが現状です。
中皮腫―メゾテリオーマ―は、胸膜や腹膜に生ずる悪性腫瘍で、タバコではならず、アスベストだけが唯一確認された原因であるといってよいのです。治療方法がありません。
いままではこの疾患はほとんどお目にかからなかったのですが、ここ数年は話を聞く機会が増えるようになり、最近は毎週のように耳にするようになってきて、アスベスト被害が急速に広がりつつあると実感しています。
さらにアスベストによる肺ガン死亡は、中皮腫による死亡件数の2倍の患者がいるといわれています。
● アスベスト条約の批准
今から約20年前、1986年にILOがアスベスト条約を作っています。青石綿と吹き付けの全面禁止、他の石綿は可能な限り、禁止か代替製品を促進するようにと。しかし日本はこの条約を批准しなかったのです。
その理由は、建て前としては、アスベストは管理すれば安全に使用することができるということでした。個別条項で批准できなかった理由としては、屋外の作業環境の規制が不十分であること、アスベストの除去作業を資格を持ったもの以外にはできないこととしていない、さらに作業着を自宅へ持ち帰り禁止等々が規制されていないということがありました。ようやく今国会でこの条約を批准する動きが出てきています。(7月衆議院で可決)
● 石綿対策全国連絡会議結成
日本では、ILO条約の翌年、1987年に労働組合(総評)が市民団体に呼びかけて、石綿対策全国連絡会議が結成されました。
1987、1988年頃に、学校の吹き付け問題から、アスベストは発ガン物質だという認識が日本中に広がり始めました。船にもアスベストがたくさん使われていますが、私たちは横須賀の米海軍基地における空母ミッドウェーの改修工事ででたアスベスト廃棄物の行方を追跡しました。基地の中ではアスベストウエイストオンリーというコンテナと他のコンテナがありました。しかし、基地の措置に持ち出されたアスベストごみは、千葉の処分場へ運ばれ一般ゴミと一緒に処理されていました。当時は、その処理は違法でなかったのですが、私たちが問題にしたので、 米軍はアスベストゴミを自国に持ち帰ることになりました。結局はそのゴミはクウェーク島に持っていったようです。
● 調査の杜撰さが
アスベストの問題として大きいのは特に学校の吹き付け問題でした。子供の健康と言うことで、新聞等々が大きく取り上げるようになり、公共の建物で、不特定多数の者が出入りする場所を、吹き付け石綿を処理をしたかどうかを調査するようそれぞれの官庁が指示を出しました。
しかし、当時の調査の問題点は、アスベスト含有商品名としてトムレックス・プロベスト・コーベックスの3種類をあげ、それ以外の15商品をアスベストが含まれていないものとしてわざわざ列挙しましたが、その内の14商品に実はアスベストが含まれていたことがすぐ後にわかりました。調査の指示そのものが杜撰なものでした。
また、吹き付けアスベスト対策として、除去と封じ込め、囲い込みの3種類の処理方法を示しましたが、除去した場合以外は、いずれどこかの時期に除去しなければならないわけですが、当時はそれでも対処完了と言うことにされ、記録も残っていない場合がしばしばあります。今それが建物解体時に問題を起こしているのです。
神戸・淡路大震災の時、非常時ということで、アスベスト吹きつけの建物がそのまま解体されてしまいました。アスベスト含有粉塵がまき散らされた可能性が極めて高いので、その影響が懸念されます。そろそろ出始めるのではと思われます。
● アスベストは全面禁止に
世界では1980年代当たりからアスベスト禁止が広がり、1996年に、フランスが導入を決定してから欧州は全面禁止に動きました。フランスがそれ以前に禁止に反対していたのは、カナダのケベック州がアスベストの産地、フランス語圏であるケベック州の帰属という政治的問題があったことも大きな理由のひとつと考えられていました。EUは 1999年に、すべての加盟国に2005年1月1日までにアスベストの使用を禁止するよう求める指令を採択しました。
フランスの禁止決定に対して、カナダはWTO[世界貿易機関]に、非関税障害として提訴しました。2001年3月、自国の国民の健康・環境を守るためにアスベスト輸入を禁止することに根拠があるとして、提訴を退けた結論をWTOは出しました。
● 日本のアスベスト使用
日本でもアスベストの使用を禁止しようとして、活動を強めました。日本ではアスベストはほとんど輸入に頼っています。戦争で輸入が止まったため、北海道や熊本等で採掘を行いましたが、品質も悪く戦後すぐに中止されています。「北の国から」で有名な山辺駅前のボタ山からアスベストを抽出し、塗料等に混ぜて使うテーリング剤として使われていました。
先進国で、年10万トンのアスベストが使用されていたのは日本だけです。
● 2030年頃にピークを迎える
2002年早稲田大学の理工学部の村山武彦先生(リスクコミニケーションの専門家)に、中皮腫の死亡者数の将来予測を建ててもらいました。欧米で最近行われている方法を参考し、死亡者数から予測を出しました。これからのアスベストの曝露がないとして、中皮腫の死亡者数が2030年頃にピークが来ます。男性の胸膜中皮腫による死亡だけで年に5000人ぐらいと予想されています。
これはEUのスイス・イタリア・ドイツについて予測されている死亡者数の人口比率で比べるとほぼ 同じ水準 です。予測に間違いはないだろうと信じています。
● 関心を余り呼ばない
イギリスやオーストラリアなどでは、中皮腫はきわめて予後が悪いので、流行の当初のとまどいや混乱の後、アスベスト疾患を理解している医療者・看護師や治療チームを増やしたり、ホスピスの視点としてとして捉えることも遅ればせながらできてきていると聞いています。
将来予測はおそらく間違っていないので、日本でも早めに準備しておくに、こしたことはありません。厚生労働省にこの問題提起しても、ほとんど関心を持ってもらえていません。アスベスト被害を労働者災害としてしか捉えておらず、関心をあまり呼ばないことが問題であります。
● 患者の家族会が禁止のきっかけ
昨年2月には「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」も設立され、総合的・抜本的対策の確立を訴えました。大きな柱としては、早期全面禁止・既存アスベスト対策・今後の被災者対策・海外移転の阻止と地球規模での取り組み・アスベスト総合円卓会議などの、提言を行いました。患者や家族自身が声をあげはじめたことが、日本での禁止のきっかけになったと考えています。
● 石綿の代替可能
2002年6月に坂口厚労省大臣が原則禁止導入の方針 を出し、アスベスト製品がどのくらい出回っているのかを調査し、その代替品を調べる「石綿の代替え等検討委員会」を2003年4月に立ち上げました。その結論は、建材(5製品)はすべて代替可能・摩耗剤(ブレーキ、クラッチ)断熱用絶縁材も代替可能・ジョイントシール剤、耐熱電気絶縁板、石綿布:石綿糸等は代替不可能なものが一部残っていると報告されました。 その結果2003年10月にジョイントシール剤と耐熱電気絶縁板と石綿糸(ジョイントシール剤の原糸として)を除いて原則禁止する政令改正が行われました。施行日は2004年10月1日です。
● 今後の課題として。
1) 在庫品は販売されていますので、将来に禍根を残さないため、原則禁止から全面禁止へ。除外されている例外品の禁止時期を明確化。
2)さらに健康被害が今後出てくるのでその対策を。
3)存在した製品・用途(吹きつけ)をどう除去するのか。今後建て替えが行われる病院・学校にはアスベストが多量に使われているので注視が必要である。
4)日本で禁止したから、外国で関係ないのでなく、外国でのアスベスト禁止を訴えかける。
*外国でのアスベスト使用を注目する必要があります。アスベストの使用は、アジアでは中国の生産と使用が一番多く、さらにベトナムも増えています。その理由は単価が安からという理由らしいです。
古谷さんの講話を若山がまとめました。